ピージャーさんが、おでこにお手紙をはりつけてやってきました。新聞で、琉大のセクハラ事件の処分に対して学生有志による抗議があったことが報じられていましたが、おでこのお手紙は、その抗議文のようです。ちょっと長いですが、パリッと全文貼り付けます。
今回の性暴力被害の訴えに対して、セクハラと認めなかった大学と裁判所に抗議するだけでなく、大学が説明責任を果たし、セクハラ対策や相談窓口がしっかり機能するよう要求し、さらに、ジェンダー・スタディーズに関する専任教員と講義や、図書館にセクハラ関連本コーナーも要求しています。ほかにも、「女性問題」は性差別だろっとか、あらゆる暴力はゆるさんぜよ、とか書かれています。
裁判所に訴えた被害者の声をききつつ、被害者の声をききそこねた琉大に向かって自分たちの声を響かせて、正義を求める声を完全に踏みにじることはできないぞ、と示しているように思われました。
キャンパス・セクシュアル・ハラスメントへの学生有志による抗議声明及び公開質問状
琉球大学大学院修了生が在学中、指導教授から性的暴力を受けたとして、2006年9月22日に教授と琉球大学を相手取り提訴した裁判において、昨年2月に和解が成立した。被告は訴訟が開始された当初、原告とは交際関係にあったと強弁し、裁判所は一審で両者の関係は原告の意に反するものではなかったと結論付けた。二審において原告が和解を余儀なくされた際には、被告は「訴訟を通じてその関係が原告女性の意に沿わないものであったことを理解した」と述べるにとどまり、セクハラの事実は否定した。その後、琉球大学は、2010年3月30日付で法文学部教授を諭旨解雇処分とし、翌31日付で教授の辞職願を受理したことが新聞紙上で発表された。このような教授と大学及び裁判所の姿勢は、性暴力の背景にある大学の指導教授と学生間における権力関係を全く無視したものであり、性暴力を性暴力として認めず、性暴力の被害を無化しようとする暴挙にほかならず、私たち学生は到底納得できない。
琉球大学は、裁判記録を検討した上で「セクハラの認定は見送った」と発表した。この事実を学習権の主体である学生は、大学からの直接的な説明によってではなく、新聞紙上で初めて知らされたのである。今回の事件についての琉球大学の対応をずっと注視してきた私たち学生に対して、大学が果たすべき説明責任が放棄されたことに強い危機を感じる。セクシュアル・ハラスメントと認識せず、しかもその経過を学生に対して一切の報告や説明を行わないということは、大学内において再びこのような事件が起こっても構わず、さらに新たな被害者が出たとしても救済措置を取るつもりはないと考えているようにしか見受けられない。
そもそも、セクシュアル・ハラスメントは、不均衡な権力関係のなかで発動された性暴力そのものである。被害者がそれを暴力として認識し、告発するに至った非常に困難な過程とその正当性を、裁判所及び大学はまるで無視しているといわざるを得ない。裁判で性暴力の被害を訴えるという行為を選択することは、法廷で事実の詳細を語らなければならない性質上、被害者本人に対し、困難という言葉では言い表せないほどの精神的苦痛を強いる場合も多く、それはセカンドレイプという二次被害を生むケースもある。大学は被害者に対し、裁判以外の場においても、独自の方法で謝罪、被害者への補償、大学内の環境改善に努めるのが当然の責務であるのにもかかわらず、琉球大学当局はこれを完全に怠っている。これは、被害者に対する暴力が繰り返し発動されたことにほかならず、性的な支配から自由な空間を切り開こうとする正義への要求をも踏みにじるものであると私たちは考える。
また、新聞紙上においては、「セクハラの認定を見送った」あなた方がなぜ教授を諭旨解雇としたのかについてまったく言及されていない。この記事の見出しで用いられている「女性問題」という語句の使用は、両者の関係を人間関係において有り得るはずもない「不適切な」ものであったとする完全に誤った認識へ巧妙に誘導してしまう。これは指導教員と学生という不均衡な権力関係の事実から目を逸らさせ隠蔽することに他ならず、被害女性ばかりか、全ての女性に対しての性差別的表現でもある。人権を侵害する社会的性差別の撤廃に努めるべき大学がこのような語句を使用したのであれば、その信頼を失わせる行為であり、社会的責任は大きい。この「女性問題」という語を、諭旨解雇の理由としてあなた方が使ったのであるなら、ただちに撤回し、被害者に謝罪すべきである。
このような、性暴力を告発する「声」を掻き消してしまおうとするあなた方の態度は、沖縄戦そして米軍占領を経て日米安保条約体制という軍事同盟のもと繰り返し発動されてきた無数のレイプと、それを告発する「声」、または「声なき声」までも圧殺してきたレイプという<政治>の歴史と一直線に繋がっていると思えてならない。そして、琉球大学が米軍統治下の混乱期において設立され、第一次琉大事件をはじめとする数々の抑圧に与してきたことを想起するなら、これは大学という場でありながらも軍事的暴力と蜜月にあったことを暴露するものである。私たちは、暴力を許容する政治的空間や言動、身振りへの怒りを表明し、現存する不正義を拒絶する。そして、性暴力をはじめとする、あらゆる暴力に抗議する。
学生有志は以下の通りに要求するものである。その回答を2010年5月7日金曜日午後5時までに下記のメールアドレスに求める。
1. 本件をセクハラと認定とすること。被害者に対し、大学側から謝罪すること。さらに教授を懲戒解雇すること。また、新聞紙上において発表された「女性問題」という表現をあなた方が使用したのであるなら、その撤回と、被害者に対して謝罪すること。
2.琉球大学がセクハラの認定を見送り、教授を不明瞭な理由のまま諭旨解雇とするに至った経緯およびセクシュアル・ハラスメント調査委員会の決議について大学側がもちうる情報の一切を全学の学生・教職員その他大学という場所で性暴力を被る可能性のある全ての人々に明快に告知した上で、説明会で情報開示すること。
3.琉球大学は、「セクシュアル・ハラスメントの防止のための指針」を定めており、そのなかの『「4.対策」における(3)調査および救済の項目』では、セクシュアル・ハラスメント救済の申立等があった場合には「適切な措置を講じて被害者の救済にあたる」としている。しかし、「適切な措置」についての具体的な項目は設けられておらず、どのように「救済」をするのかも不明確である。また、申し立てを行う被害者はもちろん、それを証言する第三者に対しても、更なる暴力を発動させないための救済措置は当然取られなければならない。よって、今後、セクシュアル・ハラスメント及びあらゆる暴力による被害の申し立てをした個人、またはそれを証言した個人に対し、大学生活、社会生活上で一切の不利益が生じないことを大学が保証する具体策を提示すること。
4.セクハラ相談窓口の利用状況を報告し、琉球大学に所属する全ての学生及び職員に対して、セクシュアル・ハラスメントについての定期的な聞き取り調査の実施を行う。その結果を踏まえた上で、相談窓口の改善を可及的速やかに検討すること。
5.ジェンダー・スタディーズに関する専任教員枠を琉球大学における全学部、大学院、法科大学院、そして放送大学のすべての過程において設置し、通常講義を最低でもむこう5年間連続して開講すること。
6.図書館にジェンダー論関連の図書を整備し、セクハラの防止はもちろん、発生時の対処法に関して記述のある図書などをまとめ、独立したコーナーを設置すること。
7.琉球大学当局が学内におけるハラスメント再発防止の徹底、上記の要請項目の達成を図る責務を負っていることは言うまでもないが、学内で暴力の恐怖に脅かされない権利を持つ全ての人間が主体となってこれに取り組むために、学生代表の役員会への参加及び教員、職員、学生による学長・理事の選挙制度を確立すること。
8.抗議に加わる全ての者の権利を保障し、いかなるペナルティをも科さないこと。
2010年4月16日
学生有志